密着! ムーンライトファンド24時

 東京。九段下。九段下桂華タワー。
 ここのビルに入っているムーンライトファンドのオフィスは24時間人が居ます。
『月に桜』の社章は桂華グループの証であり、近年急速に日本政財界に影響力を強めている桂華グループの中枢がここムーンライトファンドなのです。
 今回、特別の許可によってここにテレビカメラが入ることが許されました。
 今、日本を動かす桂華グループの奥の院。その24時間をご紹介します。

 桂華グループは大戦の元勲の一人である桂華院彦麻呂公爵。
 彼が社長となった桂華製薬、現在の桂華岩崎畑辺製薬から始まりました。
 桂華製薬から広がった桂華グループは、バブル崩壊後の不良債権処理過程でその規模を拡大させていきます。
 そのきっかけとなったのが、北海道開拓銀行の買収でした。
 そこから始まった桂華金融ホールディングスを始めとして、桂華鉄道、桂華商会、桂華電機連合等の企業群が桂華グループを巨大化させていったのです。

「現在の桂華グループは集団指導体制をとっています。社長会である鳥風会を頂点に、桂華金融ホールディングス、桂華鉄道、桂華商会、桂華電機連合の四社がグループを引っ張る形になっているのです」

 今回案内をしてくれる船上庄忍(ふなかみしょう・しのぶ)さんは、桂華商会から出向した帝大経済学部卒業の才媛。
 鳥風会の組織図を見せながら、我々の取材にハキハキと答えて頂きました。

「ムーンライトファンドは桂華グループのオーナーである桂華院公爵家の財産管理組織の一面があります。財閥バッシングが強い昨今、その管理を行う持株会社の設立を行わず、あくまでこの集団指導体制で桂華グループを維持・発展させていきたいと思っています」

 なお、ムーンライトファンドは昨今の時価会計導入によって桂華資源開発という会社組織となりました。
 この会社は桂華商会の子会社です。

「元々、ムーンライトファンドは海外IT企業に投資する事で財を成し、今の収入の多くは海外からの資源を国内に輸入する事で成り立っています。そのため、桂華資源開発は必然的に総合商社だった桂華商会に属することになったのです」

 船上庄忍さんにファンドオフィスを案内して頂きました。
 たくさんのモニターには色々なチャートが並び、トレーダーたちが電話やモニターで売買を繰り返しています。

「先程申し上げたように、ムーンライトファンドの収益源は海外にあり、必然的にドルになります。それを日本国内に持ち込んで使うためには日本円に変えなければなりません。我々の仕事は、このドルで資源を買い、日本に運んでそれを売る事で円に変えることなのです」

 ムーンライトファンドのオフィスは時間帯によって仕事が変わる。
 日本時間の9時から18時は、日本向けの仕事が中心になる。

「はい。……タンカーの到着は…………」
「……原油の荷降ろしは……」
「香港から代金決済確認できました!」

「この時間は、持ち込んだ原油の売買になります。我々が持ち込んだ原油は、東京原油市場や香港原油市場で石油元売に売ることになります。このあたりは、桂華商会出身者だけでなく桂華金融ホールディングス出向組も手伝ってくれます」

 電話やモニターのやり取りを説明している間も、船上庄さんはモニターのチャートから目を離しません。
 価格のブレで数億、数十億の差が出るからです。
 夕方から人の流れが変わります。
 電話の会話も日本語ではなく英語が飛び交うようになりました。

「夕方からはロンドン市場が開きます。欧州時間は我々桂華商会組の出番です」

 資源購入の中心は原油です。
 日本向けの原油は中東から購入されており、現地時間に近い欧州時間はトレードの本場となります。

「ドバイ原油先物の価格は?」
「北海原油はどうなっている?」
「北米のWTIの価格チェックを忘れるな!!」

 取材中にちょっとしたトラブルが発生しました。
 トレーダーの一人が船上庄さんを呼びます。

「北海原油の先物が上がっています。それに釣られてドバイのスポットも上昇傾向にあります。先物で押さえておきますか?」
「これ判断難しいわね。上に報告しておきましょう。欧州と北米担当に確認を。この時間だと……まだニューヨークは開いていないわね」
『何が起こったんですか?』という我々の質問に船上庄さんはモニターのチャートを見せながら説明してくれました。

「スポット価格、つまり今の原油価格が上昇基調にあるんです。日本は中東で原油を輸入して本土に持ってくるのに片道20日、積み込み5日かかります。だから、一隻のタンカーが原油をこの国に持ってくるのに45日で計算しているんです。
 今、日本を出港するタンカーが、20日後の更に高くなった価格で原油を積み、45日後日本に帰ってきた時に原油の価格が下落していたら、高値づかみで損をしてしまうんです。
 だから、今の価格で原油を先物で押さえて、価格変動で損をしないようにするかという判断を求められたんです」

 世界の何処かで取引は続けられています。
 日本では夜になったこの時間は、ニューヨーク市場が開きます。
 この場にいる人間は、桂華商会の人間ではなく桂華金融ホールディングスから出向した人間に切り替わっていました。

「ダウの価格どうなっている?」
「ナスダック冴えないな。ウォール街の連中は何て言ってるんだ?」
「欧州の先物に気をつけろって連絡あったろ? 向こうに指示出しておけ!」

 我々への説明のために残ってくれた船上庄さんがトレーディングルームから離れた場所で説明をしてくれました。
 空気も一番ピリピリしています。

「ムーンライトファンドはIT株で財を成して、そのいくつかは今も保有し続けています。その為、それらの株式が上場しているニューヨーク市場の時間はいつもこんな感じですよ。取引はニューヨークの桂華金融ホールディングス支店が行っていますが、大取引とかになると我々も徹夜で対応することもあります」

 取材は一旦ここで終了となりました。
 船上庄さんは帰路につきますが、家は九段下桂華タワー側の桂華グループの自社物件です。

「何かあったら駆けつけられるのが大きいですね。何度も電話で叩き起こされましたよ。それでも、この仕事は面白いですね。桂華グループの一員として世界を相手にしているのですから」

 こうして、ムーンライトファンドの一日が終わります。
 今や日本でも有数の大企業になった桂華グループの中枢はこうして今日も世界を相手にマネーと資源をこの国に運んでいるのです……。

【用語解説】
・原油価格……日本を含むアジア向けの原油相場がドバイ原油スポット。欧州の原油価格が北海原油先物。北米がWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)先物。この三つが世界の3大原油指標と言われている。